恋人ごっこ幸福論
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次の日の朝、いつもより早く支度して学校へ来る。
本当にこんな朝早くからいるのかな。まだ先生くらいしか見かけていない校内を歩いて体育館へ向かう。
もしいなかったらどうしようかな、なんて緊張しながら体育館へ近づいていくとボールを床に打ち付ける音が聞こえてくる。
いる、まだ確信持てないけど誰かいる。
期待を胸に膨らませ、微かに空いた入口のドアからそっと中を確認した。そこには、1人でドリブル練習する大好きな、大好きな彼の姿があった。
菅原先輩の言う通りだ。本当に自主練しているんだ。
入っても大丈夫なのかな、躊躇しつつももう少ししっかり見たいという欲望が湧いてきて隙間を広げようとドアを押すと、ギイっと音がしてしまった。その瞬間肩を揺らして振り返る彼と目が合った。
「あ…」
まずい、なんか気まずい。
そもそも彼に話しかけるつもりでここに来たのだからばれることは構わないはずなのだけど、なんだかうしろめたさを感じてしまう。
そのまますたすたとこちらへやってきた橘先輩によってドアが開けられてしっかり姿を見られる。
「誰かと思ったら…神山《かみやま》かよ」
「は、あはは…おはようございます」
どうしよう、怒られるかな。いつもだって見に来られて少し迷惑そうにしているし。
というか、私の名前覚えてくれていたんだな。いつも無視されるし自分への認識なんてないと思っていたから嬉しい。
…って、それどころじゃない。怒られるかもしれないのに何考えているんだ私。