恋人ごっこ幸福論
「なんか忘れ物?」
「え?」
「何、こんな早く来てたからそうかと思ったんだけど。違う?」
怒られるかもしれないとドキドキしていたけれど、彼は怒る素振りもなくさらっとそう聞いてきた。
受け入れてくれるんだ。無条件に突き放されると思っていたのに、我ながら好きな人にこんなことを思うなんておかしいけれど。
「忘れ物じゃないんです。その、菅原先輩に橘先輩が朝練習してると思うから行ってみたらって教えてもらって…会いに来たんです」
「…わざわざ朝から?」
「はい」
ここに来た理由を正直に述べると、橘先輩は吃驚した顔をする。そりゃそういう反応するよね。普通に考えたらここまでしないもん、自分でも強引な方法だとは思っているけど。
「放課後はあまり居られないから少しでも近くに居られるチャンスが欲しくて。できたらお話してほしいけど嫌だったらいつもみたいに無視してもらっていいので、見させてもらってもいいですか?絶対邪魔しないので」
でもこうでもしないと近づく方法分からないもの。多少やりすぎでも引いてなんて居られない。
真っ直ぐ彼の目を見つめて、はっきりとお願いする。少しの間の後、橘先輩が1つ息をついた。