恋人ごっこ幸福論
「…無視しないでお話してくれるんですか」
「別に今部活中じゃないし。わけも分からずただ黙って見られていたら落ち着かねえわ」
そのまま私の隣に来てすとんと腰を下ろすと、橘先輩が私の方を向く。
すごい、すごい。2人きりってだけでいつも全く相手にしてくれない橘先輩がすごく私に関心持ってくれる。
正直期待と共に不安もあった菅原先輩の策がこんなにも効果的だったなんて。
「こんなに先輩が話しかけてくれるなんて…あの日以来」
「え?」
「ホームに…飛び込もうとして助けてもらった日です」
「ああ…」
「再会した時も言ったけど、本当にありがとうございました。お陰様で元気に生きてます」
「…だったら別にもういいよ、これもその時言わなかった?」
「言われました」
ふふっと笑ってそういうと、橘先輩が不思議そうに目を細める。
「何が楽しいんだよ」
「橘先輩と今日はたくさんお話できるから」
「いや、だから…なんで俺と居てそんな嬉しそうなわけ」
「え」
彼の言っていることの意味が分からず、思わず声が漏れる。
「助けた恩で懐いてるにしても異常じゃないって言ってんの」
ああ、そういうことか。
まさかこの人気づいていなかったなんて、自分なりに言葉にして伝えてきたつもりだったんだけどどうやら彼にはただの不審な行動にしか見えていなかったらしい。