恋人ごっこ幸福論
「橘先輩の優しさが無かったら、私きっと今頃頑張れてなかった」
全部、全部。あの日から私が今存在しているのは全て貴方に出会ったから。
貴方の優しさは、一見分かりにくいかもしれないけれどとても温かくて。一度知ったらもう忘れられないものだということを知ってるから、好きでいるんだ。ずっと。
「…やっぱり理解できねえわ」
私の気持ちを聞いて、考え込んでいた彼が口を開く。
「まあ、これだけ無視されてるのに好きだって言っていたら、そう思うのも分かるんですけどね」
私の好きの形なんて貴方は考えてもいないだろうから、仕方ない。
「いや、そういうことじゃなくて」
けれど私がそう思ったすぐ、間違えた、とでもいうように彼が否定する。
「そういう…好きっていう感情がどういうものか理解できないって意味で。お前が俺のこと凄く思ってくれてるのは伝わったよ」
「え、本当ですか…!」
「うん」
「よかった…!」
私の気持ちだけはとりあえず認めてくれるんだ。
“伝わった”という言葉をひしひしと噛み締めると、一生懸命伝えてきてよかったと心から思う。と同時にふとあることに気づく。
そういえば今、「好きっていう感情が理解できない」って言っていたような。