恋人ごっこ幸福論
「俺からしたら、男も女もただの人間だしそういうこと考えてこなかったんだよ。そしたら気が付いたらこんな風に」
「ふふ、そうだったんですね」
「そんなおかしい?」
思わず微笑んでしまうとむっと不機嫌な表情で彼が問いかけてくる。
「ううん、ただ安心しちゃって」
今日はいつもよりも彼との距離が近づいた気がする。人の弱みを知るというのは、その人の強みを知るよりも、より深く知れるから。彼にとっては災難かもしれないけれど、私にとっては思いがけないラッキーだ。
「…幸せなやつ」
「うん、私今凄く幸せなんですよ。全部橘先輩のおかげ」
「大袈裟だわ」
そう私に言いきる彼は、いつの間にかいつもの素っ気ないポーカーフェイスに戻っていた。もっと恥ずかしそうにするところを見ていたかったな、と思いつつもそんないつもの彼もやっぱり好きだなと思う。相変わらず単純だ。
「てことは…私が橘先輩の初恋の相手になれる可能性も残っているんですよね」
「ま、そうじゃない?」
窓の外に視線を向ける彼にそう聞く。野球部がグラウンドで練習している様子を見ている彼の感情は、何を考えているのかさっぱり読めない。