恋人ごっこ幸福論
「で、ここで大丈夫?」
「はい。充分すぎるくらいですけど勝手に使っていいんですか?」
「さあ?ま、ばれたって別にそこまで怒られねえよ」
「えええ…」
随分適当では…。
とはいえ他のあても思いつかないし、不安だけどここは大人しく従うことにして近くの席に座った。その目の前に、橘先輩が座って身体だけこちらに向けてくる。
「で、とりあえず一緒に昼飯食ってたらいいの?」
「え、えーっと、た、ぶん」
「多分って、…本当にそんだけでいいの?」
唐突な質問にぎこちなく返事すると、頼りないなあと言いたげな表情をされる。
「私は、とにかく橘先輩の隣に居られるようになりたいって思ってたから。本当に現実味がなくて…」
「隣に居れるだけでいい、ってしつこいくせに案外無欲な奴だなお前」
「まともに近づくのだって難しかったんですもん。それに、好きな人が隣に居るって、それだけでただ幸せなんですよ」
「ふーん…」
私の考えがあまり理解できないのか、首を傾げながら菓子パンの袋を開ける橘先輩。クリームパンとメロンパン、チョココロネ、と蒸しパン。甘いパン結構好きなのかなあ、とふと彼を見ながら思った。
例えばこうした些細なことを知れることとか、こういったことが隣に居られる特権なんだけどな。でもそういうことは実際相手のことを考えていないと感じないことなのかもしれない。