恋人ごっこ幸福論





「橘先輩の反応のせいじゃないです。無反応なのは慣れてますし全然気にしてません。ただ私の問題で、」

「だったら益々気にしなくていいんじゃね。俺は普通にお前の話聞いて不快になんて感じてないし……大丈夫だよ」



顔は無表情なのに、はっきり“大丈夫”と言ってくれる声は心なしか優しく聞こえる。

やっぱり、優しい。無意識なんだろうな、普段素っ気ないのにきっとこういう時にさりげなく優しさを見せるのは。

自分から決して穏やかさを見せているつもりもないのに、目の前の相手に寄り添って自然とそんな言葉と態度が出せるのは彼が本当に優しいから。

私が好きになった貴方のその優しさは、こうやって小さな不安を簡単に浄化させてしまうくらい偉大なものだ。特別なことなんて言っていない、それなのに貴方に“大丈夫”って言われただけで本当にそんな気がしてきてしまうんだから、凄い。



「つーか俺は、お前がホームに飛び込もうとしたり勝手に朝練に来たり突拍子もねえことしてるとこばっかり見てるから、多少出しゃばろうが何しようが動揺しないわ」

「た、確かに!私もう既に出しゃばってますね…」

「うん」

「うん、って…ちょっとくらいそんなことないとか言ってくれても」

「正直に言ってやった方がいいこともあるだろ」

「え、ええ~…」



この人とずっと一緒に居たい。まだあの日から立ち直れていないこともあるけれど、この人と一緒に居たらきっと全て乗り越えられるようになる気がするから。

隣に居るだけでいつも勝手にパワーをくれる彼の、恋人としての一歩を踏み出したい。



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