恋人ごっこ幸福論





「あ、あの」

「ん?」

「卵焼き…よかったら食べません?」



だからいつもよりも勇気を出して、少しでも自分のことを知ってもらうようにしよう。

感情の読めない表情の彼に勧めると、少しの間それを見つめて瞬きしてから私に向き直った。



「いいの?」

「はい。むしろ胃袋でもなんでも掴めるなら…掴みたいし」

「馬鹿正直か。…じゃ、貰おうかな」

「ぜひぜひ!あ、お箸どうしよう…私が使ったので良かったら」



お箸を手渡そうとするとふと思いついたように橘先輩が急に目の前に手を挙げて、ガードするようにストップをかけてくる。



「先輩?」

「ただし、神山が食べさせてくれんだったら貰う」

「え?食べさせるって」

「恋人っぽいんじゃないかなって思ったんだけど。胃袋でもなんでも掴む気ならしてみて」



肘をついた左手に頭を持たれかけさせて、上目遣いでそんな風にお願いしてくる彼には掴まれる気も隙も無さそうで。

さっきまでキュンとしていた心臓がまたドキドキさせられて、この人と居たら心臓が悪くなりそうだ。




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