恋人ごっこ幸福論





「わかった…食べさせ、ます」



でも、ここで私も引いていられない。震えそうになるお箸を持つ手で卵焼きを掴んで、いざ目の前で待つ橘先輩の顔を見る。

かっこいい。本当に整ってるな、この人。

ドキドキしながらそっと彼の口許へ運んでいく。



「遅い」

「え、」



あと少しのところで、すっと彼の手が私のお弁当箱にある別の卵焼きを取って。そのまま、そっちを彼は口に入れた。



「冗談だよ、馬鹿」

「じょ、冗談!?」

「すぐに引っかかってたらあぶねえぞ」

「そ、そんな」



酷い、こっちは凄くドキドキして心臓壊れそうだったのに。急に「食べさせて」なんて言われて凄く動揺したのに。



「あ、でも卵焼きは旨い」

「…っ、ありがとうございます」



そんな風に嬉しそうにされたら、文句の1つも言えなくなってしまう。

喜んでもらえたら、私も嬉しいけど…その前にちょっとは耐性つけてがんばらなきゃ。


結局箸に残ったままの卵焼きを自分の口に入れて、そう意気込んだ。




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