恋人ごっこ幸福論
「とりあえず、これでいいかな」
一言だけ、“もう帰りましたか?”と送ってスマホを閉じると課題に集中することにした。
しばらく課題に取り組んでいると、バイブ音が鳴って、通知が来る。ちらっとスマホの画面に視線だけ向けると、期待通り彼からの返信が来たようだった。
あと英語の予習だけだしこれ終わらせたら確認しよう、気になるけれどここはあと少しだけ頑張ろうと一層目の前の問いに集中させる。
「終わり、っと…やっとできたー…」
ようやく最後の問いを解き終えて、ノートを閉じると息をついた。やっと返信見れるな。
こんなに誰かからの返信を待ちわびることがあるだなんて、なんだか不思議な気分。心躍らせながらディスプレイをスライドさせて、メッセージを確認するとつい目を見張る。
「…え?」
何故なら彼からの返信で、帰宅報告の後に“夜電話掛けてもいい?”と綴られていたから。
え、え、なんだろう。唐突なお願いに意図が分からず何度も見返す。
…もしかして、これも恋人らしくとかそういうつもりなのかな。
思い返せばLINEの交換から卵焼きの件といい、いきなり過ぎる提案を結構されているし、可能性としては充分にあり得る。とりあえず10時くらいなら大丈夫って返事しよう。送るとすぐに一言“分かった”とだけ返事が返ってきた。
…10時までにお風呂とか終わらせなきゃ。
大したことではないはずなのに、彼とのことになると毎回大袈裟に意気込んでしまうのはもう癖になってしまっている。