恋人ごっこ幸福論
「じゃあ、先輩からも電話してくださいね」
『ああ、分かったよ』
「そして…いっぱい、私のこと考えてくれたらもっといいなあ、なんて」
『…もうちょっと堂々と言えばいいのに』
「先輩がまともに聞いてくれてると思ったらなんか恥ずかしくなってきちゃって。本当はもうちょっとぐいぐいいきたいとこですよ…」
『そんなに?』
ふっと笑う彼の声は、やっぱりまた余裕そうだ。
なんだか付き合える前の方がもっと攻めれてた気がする、無視されないで受け入れようとされると逆に恥ずかしくなってきてしまう。
電話だったらむしろもっとできると思ってたのに、攻めるって何だろう、攻めるって難しい。
『…そういう素直なとこが1番いいと思うけどな』
「え?何がですか」
ぼそっと呟いた言葉が聞き取れず、橘先輩に聞き返す。けれど。
『…なんでもねえよ』
「え、いいんですか」
『ただの独り言だよ』
「?分かりました…」
強めにそう返されたので、結局何て言っていたのかは分からなかった。
「じゃあ!次は嫌いなものの話ですね!私は…」
『弱点簡単に話していいの?利用して悪戯するかもしんないけど』
「えっ…でもお互いのこと知るためだし…どうしよ…」
『おい単純だな』
「だって橘先輩が…!」
その後、嫌いなものとか最近していることとか、本当によくある自己紹介のような話題でずっとお話して。気が付いたときには、日付が変わるような時間になっていて慌ててお開きした。
こんなに夜更かししたのも、大好きな人と時間を忘れるほど話したのも、初めての経験だった。
この世の中には、こんなにも楽しいことがあったんだな。そんな風に思えるのもやっぱり、貴方のおかげだと感じていた。