恋人ごっこ幸福論




***




次の朝練の日。

まずい、いつもより少し家出るのが遅くなっちゃった。

炊飯器の予約スイッチがちゃんと入っていなくて、朝から非常用のパックご飯探しに明け暮れてたからな…。

校門を抜けて時計を確認すると、7時15分だった。

絶対もう橘先輩来てる!1秒でも多く一緒に居たいのに、昨日の自分を恨みながら駆け足で体育館へ向かう。

今日もボールが床に打ち付けられる音とシューズが床に擦れる音のする体育館のドアを開けて、勢いよく駆け込んだ。



「お、はようございます」

「ああ、おはよ」



特に視線を向けてくることもなく、私に返事する声だけが体育館に響く。そのまま止まることなく練習を続けている彼の姿を観ながら隅っこにいつも通り腰を下ろす。


もうすぐ試合だからなのか、なんだかいつもよりも力入れて練習してるような気がする。今日は特に話しかけたら駄目かもしれない。

いつも練習中に話しかけたら邪魔だなんだと言われているので、こういうタイミングを見計らうのも慣れてきた。ただ待っているだけなら来る意味ない気もするけれど、こうやって懸命に練習する彼の姿を眺めているだけの時間が結構好きだから、なんだかんだ今まで来続けているのだった。


きっとこれから暑くなってきてもしつこくこうやって会いに来るんだろうな、そうやって好きな人の姿を眺めていると、スマホのアラームの音が体育館に鳴り響く。

橘先輩が自身のスマホにセットしたそれは、一旦休憩の合図だ。




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