宿敵魔王は元カレでした。
失恋してその日に命を絶った私は、この世界での使命と共に生きていくべきなのに。
大好きだった彼のせいで……その使命も果たせそうにない。
「スレーン……私……」
「君の早とちりな所は昔からだったろ?連絡が取れなくなったのはごめん、謝る。でもな、俺は君の笑顔がどうしても見たくて頑張ってたんだ」
頬を撫でるスレーンの手の温もりにじわりと涙が滲む。
「前世のような綺麗なものではないけど、どうか受け取って欲しい」
魔法で光の礫を生み出したかと思えば、出来上がったそれを私の左手の薬指に嵌めた。
「結婚指輪の資金を頑張って作ってたんだ」
「……」
「結局貯めてたお金も無駄に終わったけど。俺もアイリーンが事故死したショックで、意識が朦朧としてた所を通り魔に刺されて……今に至るんだ。もう二度と会えないとやさぐれてた俺は魔王になって、悲しみを忘れようとしてた。それがこんな形でアイリーンに会えるなんて、贈り物を貰った気分だ」
「ごめんなさい……ごめんなさいっ」
私の勘違いでお互い命を落として、前世の世界での生活に幕を閉じてしまった。
全て全て……私が悪かったんだ。
「どうしてそんなに謝るんだよ」
「だって……私が勘違いしなかったら、前世の世界で一緒になれたのにっ……」
「何言ってるんだか。それが出来なかった分、神様がこうして俺たちを祝福してくれてるんだろ」
「え……?」
「勇者と魔王の戦いなんか今日ここで全て終わりにすればいい。そんな運命を辿るために俺達はここにいるんじゃない。アイリーン、一緒に生きよう」
再び唇を奪われて先程よりも強いキスに、混み上がった気持ちと一緒に涙が一つ流れた。
離れた温もりに我慢できなくなって、自らスレーンの首に抱きついて精一杯の気持ちを言葉にする。
「私も大好きだったの……ううん、今も大好きよ」
「ようやく素直になった」
意味ありげに微笑んだかと思えば、私から離れて身にまとっていたマントを脱ぎ捨てた。