宿敵魔王は元カレでした。
ええい、もう別れたのだ。
そんな過去の小さなあれこれを悔やんだって、これから先の幸せを掴めるわけじゃない。
婚期逃がす前に次の素敵な男性に巡り会うために、うじうじしてられないのよ。
近づいてくる足音にイライラの限界がやって来て、足を止めて振り返って駆け寄ってきた彼氏、いや元カレーー三上 颯(ミカミ ハヤテ)の顔に平手を放つ。
ぎょっとした顔を向けてくる通行人にお構い無しに、私は最後の別れの言葉を睨みつけながら言い放った。
「いい加減にしてよ!私はもうあんたとの関係は何もないの!!さようなら!!」
突然のことに頭がついてこない様子の颯に回れ右して今度こそ追いつかれないように、全力疾走してその場から立ち去った。
本当はもう少しちゃんとしたお別れをしたかった、だけど不器用な私にはきちんとあんたとの関係を切り離さないと……今にも泣きそうだったんだもの。
今更になってごめんなさい、痛かったよねと駆け寄って行きたくなる気持ちが芽吹く。
大好きだったのに、なのにどうして私を裏切ったりしたの?
私の何がいけなかったの?
またしても感情が入り乱れては私自身を壊していく。
涙で視界が歪み、今どこを歩いているのかさえ分からなくなった。
耳に入り込んでくる音もノイズが走って上手く聞き取れはしないし、胸はどんどん苦しくなるばかり。
誰かが何かを叫んでいる、大きな声だと言うのにそれすらもハッキリと音を聞き分けられない。
そんな時、体が地面から離れる感覚と大きな衝撃と共に激痛が全身に走った。
プツンと私の中で何かが切れた音がして、意識は一瞬にして暗闇の中へと落ちた。
ーーこれが、私の最期になるということを知ったのは少し先の事。