宿敵魔王は元カレでした。
聖剣を構えて怒りを露わにしていると、落ち着けと言わんばかりの魔力で私の身動きを取れなくする。
「こっちが魔法専門外ってのを出しにしてくるとは、いい度胸じゃない」
「……そうでもしなきゃ今は話を聞いてくれないだろ」
「話も何もないでしょ!あんたと私はこれから命を掛けた勝敗を決める戦いをするのよ!!」
今更何を言ってるんだこの魔王は。
これまでどれだけのモンスター達が街に攻め入って来て、関係の無い人々の血が流れたのかを知らないとでも言うのだろうか。
「俺はそんなことしたくない」
「はあ?!」
「お願いだ、少し俺の話を聞いて欲しい」
真剣になると少しだけタレ眉になって下唇をきゅっと噛み締めるその姿は……やっぱり私の知っている、いや記憶にある彼の姿の面影が滲む。
反則よ、そんな顔されたら私だって口を閉ざしちゃうじゃない。
「あの日、アイリーンが……いや沙和子が突然別れを告げて、正直思い当たる節がなかった。きっと沙和子が勘違いしたのは、俺の姉とのチャットの話だったんだろ?」
「お姉……さん?」
「もう少しで結婚式を控えていてさ。実はその結婚式に沙和子も招待するつもりだったんだ。俺の決めた女性はこの人ですって皆にも紹介するために。だから色々と姉さんの準備を手伝ってたりもしたんだ」
知らない、前世では聞いたことの無い話だ。
そもそもそんな素振りを見せていなかったし、そんな招待するくらいだったら、前もって言っておいてくれれば良かったのに。
でもそれだけじゃない、私と連絡が急に取れなくなったりしたのもある。
嘘をついてる可能性だってあるんだから真に受けちゃダメだ。