【しょくざい】第2話【幸福論】
その日はとても混んでいた。この地獄のレストランで客の出入りが多い。ここで働く設楽は考えていた。ここが混むということは現世ではあまり景気が良いとは言えないことだからだ。ここに来る客は全て自ら命を捨てた者。しかしこの地獄が忙しいとはいえやって来る客にわざわざ悲しみや哀れみという感情はない。だがなんとも複雑な気持ちだ。混ざりたて多色の油絵の具、黒や紺たまに赤それを何度もぐるぐると中心を円に混ぜていくような感情だ。とても息苦しい。
今日は設楽がこの地獄に来てから一番混んでいる。ほぼ満席だ。設楽は思った。いったい下でなにがあったのだろう。
そんな中また1人男性の客がこの店に入り込んだ。見た目はだいぶ若い、20代前半に見える。
「いらっしゃいませ」
一人がそう放つと他の奥にいるスタッフがまちまちに「いらっしゃいませ」と続ける。
「今日何かあったんですかね」設楽は先輩の石田に問いかける。
「おれも初めてだよ、集団自殺でもあったんじゃないの?」
手際よく料理をしながら設楽と石田は何があったのかを探ろうとしていた。
先程店に来た若い男は現状を理解出来てない様子で呆然と壁を見ていた。設楽は水を置きに行く。
「いらっしゃいませ」
「あ、はい、あの、俺死んだんですか?」
「はい、そうなりますね」
ここに来るものは皆自ら命を絶った人間だ。ここは地獄の給仕所。それに違いはない。自殺したのに死んだことに気がついて無い事などあるのだろうか不思議な話だ。
「マジか俺死んだのか」
「まだ未練がございましたか?」
設楽が丁寧に聞き返す。
「未練ありまくりですよ、俺まだ23ですよ、マジかよ死んだのかよ、戻れないんですか?なんとか、今週のマンガ読まないと、それに仕事もあるし、どうしよう、なんとかなんないですかね」
「そうですね、戻るのは出来ませんね」
「嘘だろ」
「まず、水でもいっぱいどうですか?落ち着きましたしら注文を伺いに来ますね」
設楽は不思議そうな顔をして厨房に戻った。
「どうだった?」
「それが自分が死んだことに納得してないみたいです」
「どういう事だよ、自殺じゃないのかよ?」
「そうですね、変なんですよ」
「まあいいや、取り敢えず作らないとな」
石田は大きなフライパンを片手で回してチャーハンを炒めていた。
設楽も野菜を切り始める。厨房は大忙しだ。
料理を作り。届ける。注文を取り。料理を作り。届ける。毎日これまでやってきたがこんな忙しいペースははじめてだった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
また新しいお客様が入店された。普段使っていない奥の席に誘導されていった。
「一体どうなってんだよ」
「そうですね、あそこの席使われてる初めて見ましたよ」
奥の席にまで人がはいる。
「俺も初めてだよ」
この地獄の食堂は決して広くは無い。しかし満員になる事など無かった。設楽が来てからは多いときでも10人くらいだった。今目の前に20~30人くらいいる。厨房は半狂乱でパニックに近かった。設楽たちシェフは止まることなく腕を振るい続ける。
厨房の忙しなさとは裏腹にお客様達はどんよりと誰も口を開かない。暗く沈んでいた。
中華にフレンチ、イタリアン、和食。設楽は額に汗を垂らしながら無難に注文をひとつひとつ丁寧に作り上げていた。
さらにオーダーも取らないといけない。
「すいません」
「はい、少々お待ちください」
厨房にいる人間はみんな一生懸命料理を作ってる。誰もオーダーに行ける状態じゃなかった。私は野菜を切りドレッシングをかけてサラダを完成させる。
サラダを注文した女性に渡しにいく。そのままオーダーにいく。
店員を呼んだのは先程入店した客で20代前半の男だ。そいつは外の様子をじっと見ていた。
「外ってどうなってるんですか?」
「眩しいですよね、私は行ったことないで分からないですけど行ってみたいですよ、注文はお決まりですか?」
外の景色か、考える暇もない。いつもと同じ。罪人は外には出られない。今は注文が第一だ。
「外行きたいな」
「お客様はお食事が済んだら行けますよ」
「そうですか、やっぱ店員さんとか見てると死んだ実感湧かないな、お客さんもたくさんいるし」
「そうですよね、注文はお決まりですか?」
「あ、スパゲッティ出来ます?タラコの。腹減りましたよ。あ、辛くないやつでお願いします」
「かしこまりました」
その男は外をじっと見ていた。次に行く場所。眩しくて明るい場所。私たちには縁がない場所。
空腹の死人かこれも珍しい。設楽は急いで厨房に帰る。
「たらこスパお願いします」
「はいよ」
設楽も考えていた。外には一体何があるのだろう。分からない。出たいと思っても出られない。一体何があるのだろう。こんなにも近くにあるのに外に出られないジレンマ。悔しい。罪の重さをまたひとつ噛み締めた。
今が夜なのか昼なのか分からない。一日が経つ事で日にちは何となく分かるがいったい何年ここにいることになるだろう深く考えると気が狂いそうだ。設楽は料理に気を戻す。我々は何の為にいつまで存在するのだろう。分からない。
今日は設楽がこの地獄に来てから一番混んでいる。ほぼ満席だ。設楽は思った。いったい下でなにがあったのだろう。
そんな中また1人男性の客がこの店に入り込んだ。見た目はだいぶ若い、20代前半に見える。
「いらっしゃいませ」
一人がそう放つと他の奥にいるスタッフがまちまちに「いらっしゃいませ」と続ける。
「今日何かあったんですかね」設楽は先輩の石田に問いかける。
「おれも初めてだよ、集団自殺でもあったんじゃないの?」
手際よく料理をしながら設楽と石田は何があったのかを探ろうとしていた。
先程店に来た若い男は現状を理解出来てない様子で呆然と壁を見ていた。設楽は水を置きに行く。
「いらっしゃいませ」
「あ、はい、あの、俺死んだんですか?」
「はい、そうなりますね」
ここに来るものは皆自ら命を絶った人間だ。ここは地獄の給仕所。それに違いはない。自殺したのに死んだことに気がついて無い事などあるのだろうか不思議な話だ。
「マジか俺死んだのか」
「まだ未練がございましたか?」
設楽が丁寧に聞き返す。
「未練ありまくりですよ、俺まだ23ですよ、マジかよ死んだのかよ、戻れないんですか?なんとか、今週のマンガ読まないと、それに仕事もあるし、どうしよう、なんとかなんないですかね」
「そうですね、戻るのは出来ませんね」
「嘘だろ」
「まず、水でもいっぱいどうですか?落ち着きましたしら注文を伺いに来ますね」
設楽は不思議そうな顔をして厨房に戻った。
「どうだった?」
「それが自分が死んだことに納得してないみたいです」
「どういう事だよ、自殺じゃないのかよ?」
「そうですね、変なんですよ」
「まあいいや、取り敢えず作らないとな」
石田は大きなフライパンを片手で回してチャーハンを炒めていた。
設楽も野菜を切り始める。厨房は大忙しだ。
料理を作り。届ける。注文を取り。料理を作り。届ける。毎日これまでやってきたがこんな忙しいペースははじめてだった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
また新しいお客様が入店された。普段使っていない奥の席に誘導されていった。
「一体どうなってんだよ」
「そうですね、あそこの席使われてる初めて見ましたよ」
奥の席にまで人がはいる。
「俺も初めてだよ」
この地獄の食堂は決して広くは無い。しかし満員になる事など無かった。設楽が来てからは多いときでも10人くらいだった。今目の前に20~30人くらいいる。厨房は半狂乱でパニックに近かった。設楽たちシェフは止まることなく腕を振るい続ける。
厨房の忙しなさとは裏腹にお客様達はどんよりと誰も口を開かない。暗く沈んでいた。
中華にフレンチ、イタリアン、和食。設楽は額に汗を垂らしながら無難に注文をひとつひとつ丁寧に作り上げていた。
さらにオーダーも取らないといけない。
「すいません」
「はい、少々お待ちください」
厨房にいる人間はみんな一生懸命料理を作ってる。誰もオーダーに行ける状態じゃなかった。私は野菜を切りドレッシングをかけてサラダを完成させる。
サラダを注文した女性に渡しにいく。そのままオーダーにいく。
店員を呼んだのは先程入店した客で20代前半の男だ。そいつは外の様子をじっと見ていた。
「外ってどうなってるんですか?」
「眩しいですよね、私は行ったことないで分からないですけど行ってみたいですよ、注文はお決まりですか?」
外の景色か、考える暇もない。いつもと同じ。罪人は外には出られない。今は注文が第一だ。
「外行きたいな」
「お客様はお食事が済んだら行けますよ」
「そうですか、やっぱ店員さんとか見てると死んだ実感湧かないな、お客さんもたくさんいるし」
「そうですよね、注文はお決まりですか?」
「あ、スパゲッティ出来ます?タラコの。腹減りましたよ。あ、辛くないやつでお願いします」
「かしこまりました」
その男は外をじっと見ていた。次に行く場所。眩しくて明るい場所。私たちには縁がない場所。
空腹の死人かこれも珍しい。設楽は急いで厨房に帰る。
「たらこスパお願いします」
「はいよ」
設楽も考えていた。外には一体何があるのだろう。分からない。出たいと思っても出られない。一体何があるのだろう。こんなにも近くにあるのに外に出られないジレンマ。悔しい。罪の重さをまたひとつ噛み締めた。
今が夜なのか昼なのか分からない。一日が経つ事で日にちは何となく分かるがいったい何年ここにいることになるだろう深く考えると気が狂いそうだ。設楽は料理に気を戻す。我々は何の為にいつまで存在するのだろう。分からない。