【しょくざい】第2話【幸福論】
 設楽はタラコスパゲティを運びながらたまらくなった。もう何故こんなに混んでいるのか知りたくなった。このたらこスパゲティを注文した男性は聞きやすそうだったので思い切って聞くことにした。
「お待たせいたしましたたらこスパでございます。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
「あ、どうもありがとうございます。死んでもお腹って減るもんなんですね、何か死んでもいろいろ大変そうですね、明日から会社に行かなくてもいいと思ったんですけどここでも働いてる人はいるし」
「そうですね、でもお客様は珍しいですよ、基本はあまり喉を通らない方が大勢です、」
「あ、やっぱりそうなんですね、いつもこんなにいるんですか?」
「いつもは空いてます。今日は珍しい方ですね」
「そうなんですね」
「お客様はどうしてこちらにいらしたんですか?」
「いやー、死ぬ気は無かったんですけどこれで」
 男は手首を二本の指でトントンと叩いた。
「薬ですか?」
「そうですね、脱法ハーブってやつです、この辺にいる人だいたいそうじゃないですか?新しいのが海外から入ったんですよ、ぶっ飛びすぎて最後は記憶ないですよ、まさか死ぬとは思いませんよ」
「え、自殺じゃないんですか?」
「んー、自殺じゃないですよ、死ぬ気なんて全く無かったし事故ですね」
 設楽は首を傾げたここは自殺者専用のレストランだ。何故事故者がここにいるのだろう。こんなことは設楽が来てから初めてだった。脱法ハーブは自殺とは言えないだろう。薬はやった事ないが命を捨てるほどなのだろうか。
「シャングリラ?」
 隣のテーブルに座る中年男性が入り込んできた。
「そうですシャングリラです」
「なんですかそれ?」
「薬の名前です。最初は気持ちよかったんですけどきれそうになると吐き気が来てまた追加してそんなことしてたら仏になってましたよ、俺一人暮らしなんですよ俺の体ちゃんと見つけてもらえるかな」
 男はパスタをすすりながら話していた。
「どうでしょうね、現世のことは私達には分かりかねるので」
「そうですか」
 ズルズルと音を立ててパスタをすする。
「でも勿体ないですね」
「まあ、そうですね」
「いや、そうとは思えないなあの感覚はあの薬をやらないけと経験出来ないだし、あの経験が出来た人間はほとんどいない、きっとこれから俺たちの死を見て世界からシャングリラは規制を受けて排除される、俺にとってはあの経験が出来ない人生の方が勿体ないと思うよ」
 快楽を知らないで死ぬ。人はどう足掻いても死ぬ。例えば薬物を辞めてもやってた後遺症は残るとしてそれで脳が狂ったとしよう、人生を何も考えなくて済むのならそれはそれでいいのではないのか、それは幸せな事ではないのか苦しいこともなくただ何も考えられないこと、それは幸福なのでは無いのかどうせ死ぬのだし人は思考があるから悩み苦しむ私も死ぬ前にやっておけばよかったかもしれない。人を傷つけるくらいならいっその事狂ってしまえば良かった。正常に狂うそれがどれほど辛いことなのか耐え難い。
「人生満足されましたか?」
「どうでしょう、まあやり直したことはいっぱいありますよ、まだまだ」
「後悔してますか?」
「いや、どうだろう、後悔する事は沢山ありますよ、薬物以外も、そんなのほとんどの人がそうじゃないですか?満足してない後悔もない人間なんてほんの一部でしょ?それに後悔がない人間なん超楽観的な馬鹿くらいでしょ」
「まあ、そうですね」
「お兄さんは後悔は無かったのですか?」
「まあ、ありますよ、もし生き返れたら薬は辞めますか?」
「うーんどうだろう、たぶん、またやるだろうね、今は死んでるおかげなのかそんなにしたいとはと思わないけど、生前はしたくしたくたまらなかったよ一日中。人間辞めるか薬物辞めるかなら人間辞める方を選んだよ、まあだから死んじゃったんだけどね」
「難儀ですね、私も人間辞めた身だから何とも言えないですね」
「お兄さんはなんでここにいるんですか」
「私は、うーん、それは言えないですが、でも人道を反したってことですね」
 
 それは法を犯してまで命を捨てる程の価値があるのだろうか設楽は疑問を残したまま厨房に戻った。
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