禁忌は解禁される
「じゃあ……
行ってくるね!」
「………」
先に朝食を済ませた颯天が、一颯の頭をポンポンと撫でた。

成人式を迎えるまで、ほんとに弟のように可愛らしかった颯天。
急に大人の男のようになり、戸惑いが隠せない。
一颯は颯天を見ることができずに俯いた。

いつもなら、ちゃんと颯天の目を見て“いってらっしゃい”と言えるのに、変に意識をしてしまっている。

「一颯?大丈夫か?やっぱおかしいぞ?お前」
颯太が心配そうに、覗き込んできた。

「いって…らっしゃい…」
聞こえるか聞こえないかの声で呟く、一颯。

“はぁー”と颯天のため息が聞こえる。

「行ってきます、姉ちゃん」
と一颯の足元に跪き、顔を覗き込んだ。

「………いってらっしゃい」
また一颯の頭をポンポンと撫でて、部屋を出ていった颯天だった。

颯天の出た襖を見ながら一颯が、
「なんか…颯天じゃないみたいだね……」
と呟く。

「それがアイツの覚悟だ」
煙草を吹かしながら、颯太が言う。

「え……?」
「何があったか知らないが、一颯…お前は颯天の覚悟をどう見てるんだ?」
煙草を灰皿に押さえつけて、目だけ一颯を見つめる颯太。
「どうって……」

「アイツは、おそらく律子を殺した世界に復讐したいんだと思う。
昔…言ってたぞ。
“どうすれば、母さんの仇がとれる”って。
まぁ…他にも何かありそうだが。
これがアイツの…颯天の覚悟だ。
もう……颯天坊っちゃんでも、可愛い颯天でもねぇんだ。
…………一颯は、颯天を甘く見すぎている」

何も言い返せなかった。




何も………




颯太の言う通りだと思えたからだ。

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