オフィスの華(令和版)~若社長と秘書のHONEYなヒミツの関係~
人混みの中に逃げ込み、そのまま横断歩道を渡り切った。

この低い声、麝香の香り。
紛れもなく栗原さん。

「心配するな。芦沢に噴射したのは催涙スプレーだ」

「助けてくれて・・・ありがとう」

「ほら」

彼は私に眼鏡を渡す。

「ありがとう」
私は眼鏡を掛けた。

「芦沢にコクられたのか?」

「いえ…飲みに誘われただけです…」

「ふうん。でも、やはり、眼鏡がない方がいいな…」

「あ…」

栗原さんの瞳に妖しい光が宿った。

「それよりもどうして此処に?」

「社長に歓送迎会の偵察を頼まれた…」

偵察って…

「何かと心配なんだよ…ウチの社長は・・・それよりも芦沢から救った俺に礼はないのか?」

「礼ならさっき言いましたけど…」

「言葉だけか?偶にはキスの一つぐらい欲しいな…表向きは俺が恋人なんだし」

夜のネオンが彼の黒髪を艶やかに見せる。

自分の意思に反して、心臓がドクンと高まった。

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