【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
「そうなんだ。残念。……その子は? お友達?」
向坂と呼ばれた子は、美波に視線をやってきた。
笑顔だった。
笑顔だった、けれど。
美波はまた、心がざわめいてしまった。
この笑顔はなんだか、あまり良くないものではないか。
そう感じてしまったために。
北斗はそれに気付かなかなかったのか、どうなのか。
美波を示して、紹介してくれた。
「ああ。幼なじみなんだ。美波」
北斗は美波のほうを向いて、多分、あいさつするようにという意味だろう、手をさし出した。
なのに、美波はそれより、向坂という子の視線に、ぞくりとした。
なんだか一瞬、にらまれたように感じたのだ。
どうも『美波』に反応されたようだった。
でもそれは一瞬であったし、向坂という子は笑顔のままだった。
なんだったんだろう、今の。
美波はまだあまり落ち着かない気持ちだったけれど、うながされているのだ。ぺこりとおじぎをした。
「方野 美波です」
なにか付け加えようかと思ったけれど『幼なじみ』は北斗が言ってくれたし、特にこれから交流もないだろうから「よろしく」も違うだろう。
よってそれだけになってしまった。
でも別になにも言われなかった。
次に北斗は、その子を示した。
「向坂 聖羅(せいら)さん。モデルの仕事でよく会うんだ」
北斗の紹介も、普通だった。聖羅も小さくおじぎをしてくれる。
「ええ。どうも」
こちらも「よろしく」ではなかった。
ただ行きあっただけなのだから、別におかしくもないが。
「じゃ、悪いな。ちょっと急ぐんだ」
それだけで終わりになった。北斗はちょっと手をあげて、もう行くのだという様子になった。
聖羅は笑みを浮かべて、「ええ。またね」と言った。
でも美波にはやはり、その笑顔はなんだかあまり良くないもののように見えてしまって仕方がなかった。
ううん、そんなわけないよ。
ただ、そういうひとなだけかもしれないし。
もう会わないと思うし。
そう思っておくことにして、北斗についていきながら、美波は小さくおじぎをして、その場を終わりにした。
「悪いな。引き留められて」
「ううん」
門を出て、道に出て、駅に向かう。
話はもう、ごく普通のことになっていた。
「ケーキ屋、予約しといたんだ。母さんの一番好きな、オレンジマドレーヌを入れて、箱に詰めてくれるように」
「そうなんだ! おばさん、オレンジが好きだもんね」
駅に入って、電車に乗って、ケーキ屋さんへ。
ケーキ屋さんは森の中の家のような、素朴でかわいらしいお店で、美波はひと目で好きになってしまった。
中にいた店員のおばさんも、優しそうな顔で、「いらっしゃい。今角さんの息子さんね」と北斗と、それから美波を迎えてくれて。
店内に漂う甘い香りも手伝って、スタジオでの出来事はすっかり忘れてしまった美波だった。
向坂と呼ばれた子は、美波に視線をやってきた。
笑顔だった。
笑顔だった、けれど。
美波はまた、心がざわめいてしまった。
この笑顔はなんだか、あまり良くないものではないか。
そう感じてしまったために。
北斗はそれに気付かなかなかったのか、どうなのか。
美波を示して、紹介してくれた。
「ああ。幼なじみなんだ。美波」
北斗は美波のほうを向いて、多分、あいさつするようにという意味だろう、手をさし出した。
なのに、美波はそれより、向坂という子の視線に、ぞくりとした。
なんだか一瞬、にらまれたように感じたのだ。
どうも『美波』に反応されたようだった。
でもそれは一瞬であったし、向坂という子は笑顔のままだった。
なんだったんだろう、今の。
美波はまだあまり落ち着かない気持ちだったけれど、うながされているのだ。ぺこりとおじぎをした。
「方野 美波です」
なにか付け加えようかと思ったけれど『幼なじみ』は北斗が言ってくれたし、特にこれから交流もないだろうから「よろしく」も違うだろう。
よってそれだけになってしまった。
でも別になにも言われなかった。
次に北斗は、その子を示した。
「向坂 聖羅(せいら)さん。モデルの仕事でよく会うんだ」
北斗の紹介も、普通だった。聖羅も小さくおじぎをしてくれる。
「ええ。どうも」
こちらも「よろしく」ではなかった。
ただ行きあっただけなのだから、別におかしくもないが。
「じゃ、悪いな。ちょっと急ぐんだ」
それだけで終わりになった。北斗はちょっと手をあげて、もう行くのだという様子になった。
聖羅は笑みを浮かべて、「ええ。またね」と言った。
でも美波にはやはり、その笑顔はなんだかあまり良くないもののように見えてしまって仕方がなかった。
ううん、そんなわけないよ。
ただ、そういうひとなだけかもしれないし。
もう会わないと思うし。
そう思っておくことにして、北斗についていきながら、美波は小さくおじぎをして、その場を終わりにした。
「悪いな。引き留められて」
「ううん」
門を出て、道に出て、駅に向かう。
話はもう、ごく普通のことになっていた。
「ケーキ屋、予約しといたんだ。母さんの一番好きな、オレンジマドレーヌを入れて、箱に詰めてくれるように」
「そうなんだ! おばさん、オレンジが好きだもんね」
駅に入って、電車に乗って、ケーキ屋さんへ。
ケーキ屋さんは森の中の家のような、素朴でかわいらしいお店で、美波はひと目で好きになってしまった。
中にいた店員のおばさんも、優しそうな顔で、「いらっしゃい。今角さんの息子さんね」と北斗と、それから美波を迎えてくれて。
店内に漂う甘い香りも手伝って、スタジオでの出来事はすっかり忘れてしまった美波だった。