【完結】イケメンモデルの幼なじみと、秘密の同居生活、はじめました。
「なんでもないなら言えるだろ」
「い、いや、言うほどのものじゃないから……」
 北斗に言うようにうながされてしまっても、こんなことが言えるはずはない。
 おまけに『誤解されたのが嫌ではなかった』なんて、もっと言えるはずはない。
「隠し事、あんまりないほうがいいんだけど?」
 けれど北斗はずるい。さっき自分で言ったことを繰り返してくる。
 美波は、う、と詰まった。
 その通りだけど、今、この状況でそれを言われるのはだいぶ困る。
「そ、それとこれとは……」
「同じだろ。隠してるんじゃないか」
 もう一度逃げるように言ったけれど、やはりぶった切られてしまった。
 美波はまた詰まることになったけれど、これ以上やり合っても、多分なにも変わらない。
 北斗の目はちょっと不満げだったものだから。
 これは、隠したままでは今度は北斗を怒らせてしまいそうだ。
 美波は諦めた。
 言うしかない。
 そう、大丈夫。肝心なことを言わなければいいのだ。
 ごくっと唾を飲んで、頬に熱がのぼってくるのを感じつつ、口を開いた。
「その……、あ、あずみがね? 私と北斗が……」
「お前と俺が?」
 北斗は、よくわからないというような顔をした。
 美波はそれで余計に恥ずかしくなってしまう。
 そんなふうに見られては。
「えーと……、こっそり付き合ってたのが……、秘密だったんじゃないか、って……思ったって……」
 言ってしまった。
 かぁっと顔が熱くなる。
 誤解でしかないのに、口に出したら恥ずかしくてならなかった。
 本当のことでもないのに、流石にこんな話題になっては。
「……はぁ?」
 その美波の前で、北斗は口を開けた。首も少しかしげる。
「ご、ごめんね! だから言ったじゃん、変なことだって! ほんとのことでもないのに……変な誤解されて……」
 しどろもどろになってきた。胸の前で手をぱたぱたと振る。
 まるで漂ってきたおかしな空気や、顔の熱を払うように。
 でもその熱は払われてくれなかったようなのだ。
「変なことなのか?」
「……えっ?」
< 62 / 85 >

この作品をシェア

pagetop