元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
プロローグ
 あまりにも順調すぎる、と思っていた。

 目の前には倒すべき存在として刻み込まれてきた『魔王』が。

 そして自分は『勇者』として対峙する――はずだった。

 それなのにどうしたことだろう。ここまで共に来てくれた仲間は大理石の床に膝をつき、頭を垂れている。

「どうして……」

 まるで忠誠を誓うようなその仕草を向けられているのは、『勇者』である自分ではなく、敵対しているはずの『魔王』。

 抜き身の剣を下げ、呆然と立ち尽くす自分の前で仲間たちは言った。

 ――供物を届けに来た。だから我が国には大陸一の繁栄を、と。
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