元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 いち早くその言葉の意味を察したのは、シュクルの父どころか祖父とも面識のあるマロウだ。その顔に小さな哀しみが浮かんでいるのも、シュクルのことを知っているからこそだった。

 シュクルはまた笑う。くすぐったそうに。そして、幸せそうに。

「私は触り心地がいいのだそうだ」

「のろけてんじゃねぇぞ、ガキ」

 苛立ちを見せた黒の魔王に、シュクルは不思議そうな顔をして首を傾げる。

「わからない」

 ティアリーゼを何度も困惑させたひと言を聞き、マロウが苦笑した。

「自分が恋をしていることを、周りに伝えなくてもいいということだよ」

「なるほど」

 ぴこ、と立った尻尾がまた床に落ちる。

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