元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 なにを感じてそんなふうに動いたのか、ティアリーゼには悟れなかった。

 反応をどう捉えればいいのかわからず黙り込む。

 そんなティアリーゼに、シュクルは平然と言った。

「殺してみるか」

(この人……)

 驚きと、少しの――喜び。そんなものを感じてしまう。

(私が殺さないことをわかっているのね)

 本人がどう思っての発言だったかはともかく、ティアリーゼはシュクルの言葉から信頼を受け取った。

 殺さない、殺せない。そう答えるのをわかっていなければ、こうは言えないだろう。

 だから逆に聞いてみたくなってしまった。

 ティアリーゼはゆっくりシュクルの首に手を伸ばす。

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