元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 その顔には相変わらず表情らしい表情がなかった。

「……ここはお墓よね?」

「いかにも」

「あなたの……ご家族の?」

 シュクルは答えない。

 代わりに、墓標に手を滑らせた。

「そう呼ぶものだとは思う」

「……どういうこと?」

「私はあまりそうと認められていなかった」

 ティアリーゼには、なぜだかシュクルがとても寂しそうに見えた。

 声色も表情も変わらないのにそう感じるのは、よく動く尻尾が今はおとなしいからなのだろう。

 そっと近付いてシュクルの手に触れる。

 やはりシュクルは反応しない。

「あなたの言葉でいいから、話してくれる?」

「そのためにお前を連れて来た」
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