元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。

 シュクルの相手がなぜ人間でなければならないのか。その答えが今、明かされようとしていた。

 ティアリーゼはシュクルの手を引くと、墓標を囲むように並んだ石段に腰を下ろした。

 もしかしたら不作法かもしれないと思いはしたが、今夜は長く過ごすことになりそうだと判断し、許してもらうことにする。

 シュクルもおとなしくティアリーゼの隣に座った。

 視線だけは墓標に向けたまま、ぽつぽつと語りだす。

「ここに血族の亡骸はない。父がすべて食らってしまった」

「……え」

「残ったのは私だけだ。……残されたと言う方が近いか」

 ぱたり、と尻尾が動く。

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