元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ティアリーゼの心を読んだかのように、小さな呟きが落ちた。

 細い腕の中で首を傾げると、シュクルは目を細める。

「お前だけだ」

「……うん」

「…………嬉しい」

 たった一言がティアリーゼの胸を締め付ける。

「これはのろけと言うらしい。先日、叱られた」

「誰に? トトさん?」

「ギィ」

「どちら様かしら」

「黒いの。……よく叱られる」

 しゅう、と息が漏れるような音が聞こえた。

 ティアリーゼの腕の中で、シュクルが喉を鳴らしている。

 今までそれといった表情を浮かべていなかったくせに、顔には安堵が広がっていた。

「私も触れてみたい気がする」

「……私に?」

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