元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「いかにも」

「いつも好きなようにしていなかったかしら」

「気を付けていた」

 顔を上げたシュクルが、恐る恐るティアリーゼの頬に触れる。

「殺してしまいそうで」

「……大丈夫よ」

「私もそう思う。……この身は弱いから」

 矛盾しているようで、理解できる言葉だった。

 本来ならばティアリーゼなど簡単にどうにかできる程度の力を持った種族なのだろう。だが、シュクルは不完全で弱い。魔王と呼ばれてはいても、それだけの力がないのだ。

 そう考え、ティアリーゼは自分の両手を広げてみせる。

「痛かったら痛いと言うから、私がしたように抱き締めてみて」

「……砕けたらどうする?」

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