元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「そうなる前に痛いって言うわ。それに、ずいぶん心配してくれているようだけど、そこまで気にしなくていいのよ」

 わざと明るく言い、シュクルの手を握る。

「これでも人間の中では丈夫な方なの。勇者って呼ばれていたこと、知っているでしょう?」

「……知っている」

 こく、と頷いたシュクルがティアリーゼの背中に腕を回す。

 長い髪がティアリーゼの輪郭を撫でるように滑っていった。

 よほど緊張しているのか、抱き締めているのに距離がある。

 身体をこわばらせたシュクルを少し笑って、ティアリーゼは優しく抱き締め返した。

「もう少し力を入れても平気。あなたがそうしたいなら、だけど」

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