元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 目の前にいるのは、立派な成人男性なのだ、と。

「ちょ……ちょっと待って」

「うん?」

 シュクルが傷付かないよう、あくまでやんわり胸を押しのける。

(私、とんでもないことをした気がするわ……!)

 未婚の女が自ら男に身をゆだねるというのはさすがにおかしい。たとえ相手が生粋の人間でなく、子供のような言動をする人だとしても、だ。

 シュクルは混乱状態に陥ったティアリーゼの様子にすぐ気付いた。

 更に離れようとするその腰を抱き寄せ、真っ赤になっている顔を覗き込む。

「どうした?」

「お願い、待って……」

「なにを?」

「こ、心の準備……かしら……」

「わからない」

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