元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
(どうしよう、どうしよう……)

 以前、シュクルを意識したときとは違う感情がせり上がる。

 愛玩動物みたいなかわいい人でしかなかったのに、今は――。

「ティアリーゼ」

 名を囁かれた瞬間、ふつりとティアリーゼの中でなにかの糸が切れた。

「私の子を産んでほしい」

 初めて言われたときとは違う甘い響きに眩暈さえ感じる。

 もうシュクルから目を逸らせなかった。見つめ合ったまま、なにも考えられずに沈黙する。

「今、とてもそんな気持ちになっている。発情期だろうか」

「は……発情期だなんて口にしないで」

「なぜ?」

「それは、その……」

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