元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 だから、以前よりずっと馴れ馴れしくなったシュクルに自由を許してしまう。

「ここで寝たいならじっとしていて」

「だめなのか」

「手を握るだけならいいわ」

「これは?」

 身じろぎしたかと思うと、シュクルはティアリーゼを抱き締めた。力を入れないようにしているのは伝わってくる。彼は壊れ物を扱うのと同じく、大切に腕の中に閉じ込めていた。

(こ……恋人って落ち着かない……!)

「だめならやめる」

「う、ううん、大丈夫……」

(失敗したわ。大丈夫なんて、そんなことないのに)

「……安心した」

 すう、とシュクルの呼吸がすぐ側で聞こえた。

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