元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ならば哀れな供物となった姫として物語にでも残る方がいい。ティアリーゼも心ない人々に傷付けられず、国の秘密も守られる――。

(……ものすごく自分勝手な話ね。本当に)

 そう、思ってしまう自分がいた。

 ティアリーゼは望んでこのように生を受けたわけではない。それでも、父の気持ちに寄り添う。

「もし勇者として魔王を打ち倒し、この国へ戻ってきたときはどうしていたのですか」

「『勇者』としてほか国への嫁ぎ先を探していただろうな」

(どちらにせよ、ここに私の居場所はなかった……)

 そう知ってもティアリーゼはやはり傷付かなかった。

 もう自分の居場所を見つけたからかもしれない。

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