元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 父も兄もティアリーゼも、皆、線がある。どこまで踏み込んでいいのかわからない、親子にはないはずのもの――。

「……ありがとうございます、お父様」

 その事実に気付きながら、ティアリーゼは無理をして笑う。

 もとより、親子らしくない親子としてここまで育てられてきた。まだ娘と呼んでくれるだけいい方だろう。

 たとえ愛されていなくとも、ティアリーゼは家族を愛している。

「人間と亜人の共存はきっと私たちのためになります。勇者として魔王を倒すことは叶いませんでしたが、人の求める平和のためには生きることができそうです――」

 王はなにも言わない。

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