元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
(シュクルのなにがこんなに好きなのかしら。自分でも全然わからないけれど……)

 ぎゅう、とティアリーゼは自分の身体を抱き締めるが、どんなに力を入れてもそこは今、空っぽだった。

(シュクルを抱き締めたい。撫でてあげたい。……私もそうしてほしい)

 生きていて、こんなにも誰かを想うことなどありはしなかった。

 シュクルの鳴き声と、ティアリーゼを愛おしげに呼ぶ囁きを思い出し、胸が締め付けられる。

(いろんなことを教えているのは私の方だとばっかり思ってた。でも、好きって気持ちを教えてくれたのはシュクルだわ)

 ここにあの獣はいない。

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