元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 キッカはティアリーゼのもたらした影響を知っている。だからこうして、頻繁に顔を出すのかもしれなかった。

 突如現れた人間の『勇者』。魔王たるシュクルがその存在に惹かれたことで、周りにも大きな変化が現れている。

 ティアリーゼが触れるようになって、シュクルは他人との距離の取り方を覚えた。会話も一言二言話していたのが、今は冗談も口にできるようになった。相手の言っていることを理解できず、空を見ることもなくなった――。

「もう一個、心配なことあるんだけどな」

「うん?」

 キッカは勝手に側の椅子に座る。

 そこはティアリーゼの特等席なのに――とシュクルは尻尾を揺らして抗議する。

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