元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「わかれよ! お前の秘密を知ったんじゃなきゃ、魔王相手にひとりで来いなんて言えるわけねぇじゃん! あの女は最初からこのつもりで――」

「それ以上は私が許さない」

 かすれた低いうなり声を聞いて、キッカは本能的に飛び退った。

 五人の魔王が治める大陸のうち、最も広大で過酷な地を治める金鷹の魔王が、弱く幼い一匹の獣に恐怖する。

「やめろよ、シュシュ。早まるな」

「もう、お前の言うことは聞けない」

 雛が巣立つときが来たのだ――と、キッカは感じ取った。

 いつもキッカにくっついて、ぽつぽつ話していたシュクルはどこにもいない。

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