元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 今まで、シュクルは頑固なところはあっても話を聞く姿勢はあった。

 だが、今は違う。

 一切キッカの言葉を聞こうとしないその態度に焦りが生じた。

「ティアリーゼは私を裏切らない。裏切られる悲しさをよく知る人だから」

「たとえそうだとしても、お前が行く必要なんかねぇ。あの人間はお前より早く死ぬんだぞ」

「それがどうした」

 また、キッカが一歩退く。

 かつて得体の知れない生き物だと恐れ、触れられなかったように、今のシュクルには近付けなかった。

 シュクルはそれを気にした様子なく、虚空を見つめて淡々と告げる。

「ティアリーゼはいずれ死ぬ。だが、今ではない」

「だからって――」
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