元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
白蜥の魔王

◇◇◇



(いったい、なにが起きたの)

 ティアリーゼは暗い独房の中で考える。

 あの日、兄に勧められた紅茶を飲んだことで意識を失い、目覚めたときにはここに囚われていた。

 手足を拘束する鎖は現実のものと思えないが、そのぞっとするような冷たさが夢ではないのだと伝えてくる。

 遠くから聞こえるのは滴る水の音ばかり。近くにほかの罪人はいないらしい――。

(……罪人)

 心の中で、噛み締めるように呟く。

 そう、今のティアリーゼは罪人だった。兄の最後のあの言葉。「人間の裏切り者」というあれがすべてを物語っている。

(最初からこのつもりで)

 結婚式の準備が共有されなかった理由。

 そして父との会話で感じた違和感。

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