元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
(タルツのために尽くしてくれるな――。あのとき、お父様はそう言ったわ。人間と彼らのために生きたいと言った私に対して、あの言葉はおかしいと思っていたけれど……)

 じゃらり、と鎖が耳障りな音を立てる。

(……レレン。あなたは自分の仕える人間がそうだと知って、この国を去ったの?)

 教えてくれなかったことを恨む気にはなれない。

 常にティアリーゼと線を引いていた教育係は、なにかと優しい面もあった。ティアリーゼが家族を想う気持ちを知っていたからこそ、なにも言わずに去ったのではと思う。

 ゆるゆるとやってくる悲しみと絶望に浸りながら、冷たく暗い天井を見上げた。

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