元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 父に娘として必要とされ、認められているのだと思っていた。

 ――すべて、違っていた。

(そうまでしてあの人たちを滅ぼしたいの?)

 シュクルをはじめとした、多くの亜人たち。獣の特徴を持った彼らより、人間の方がよほど『獣』じみている。

 うつむいたティアリーゼはしばらく嗚咽を漏らし続けたが、囚われた手では自分の涙さえ拭えない。

 無性にシュクルに会いたかった。愛おしげに触れてくるあの手に、撫でてもらいたかった――。

「ティアリーゼ」

 突然名を呼ばれ、はっと顔を上げる。

 一瞬の期待はすぐに打ち砕かれた。

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