元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 自分を見下ろす冷酷な兄の瞳。似ていないと言われ続けたふたりが互いを捉えて見つめ合う。

 足音に気付けなかったのは泣いていたからだろう。

 そんな自分を恥じるように、ティアリーゼは唇を噛み締めた。どんなに侮蔑の眼差しを向けられようと、決して視線は逸らさない。

「私を裏切り者だと言うのなら、早く処刑でもなんでもすればいい。なぜ、今も生かしておくのですか」

「魔王を呼び出す餌にする」

 ぞ、と冷たいものが背筋を走り抜けた。

 ティアリーゼがこんな状況だと知れば、シュクルはきっと来てしまう。

「あの人は魔王です。下手に怒りでも買えば、なにが起きるか――」

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