元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「だめ――!」

 本当にぎりぎりの瞬間、ティアリーゼはシュクルの前に飛び出た。

 背後には縮こまる兄の姿があるのを感じながら、巨大な竜と相対する。

「もう、やめましょう?」

 ぐるる、とという唸り声が大気を震わせた。

 この姿では話もできないのかと焦ったとき、竜の太い喉から雑音の混ざった低い声が響き渡る。

「なぜ?」

 話はできるのだと安堵すると同時に、背筋がまた冷えた。やはりシュクルは冷静に人間を殺していたのだ。

「お前は三度裏切られた。なぜ、許してやる必要がある」

「私の家族なの。たとえ、ひどい人でも」

「家族の大切さなど、私にはわからない」

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