元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 どうシュクルを諭すかが思いつかない。獣の意思は固かった。

「わからないなら私が教えるわ。あなたにも家族をあげる。子供だってたくさん産んであげるから」

「いらない」

 小さな人間を前にして、竜が退いた。

「私はお前を捕らえたいわけではない」

(……ああ)

 どういう意味なのかを聞く必要はなかった。ティアリーゼはシュクルと何度も会話してきている。

「あなたと取引をしたくて、妻の立場を受け入れようとしているわけじゃないのよ」

 これだけの惨事を生み出しておきながら、シュクルはたったひとりの少女に怯えていた。その証拠に長い尾がへたってしまっている。

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