元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「あなたが好きだから言っているの」

 退いてしまう前に足を踏み出し、血と煤にまみれたシュクルの首を抱き締めた。

「私たちの場所に帰りましょう?」

「……いいのか」

「なにが?」

「私は思っていたよりも人間を殺すのが好きだ。今、知った」

「……聞かなかったことにするわね」

「わからない」

 そう言ったシュクルの声がいつも通りに聞こえ、ほっと息を吐く。

「帰りましょう、シュクル」

 ティアリーゼは再び諭すように言う。

「お前がそれを望むなら」

 頭を下げたシュクルに、背中へと乗るよう促される。こわごわとよじ登ったティアリーゼは、動くたびに背中へと走る激痛に顔をしかめた。

< 377 / 484 >

この作品をシェア

pagetop