元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「だったらもうちょっと優しくして……」

「している」

「……やっぱりメルチゥを呼んでくれると嬉しいのだけど」

「嫌だ」

 そもそもシュクルの前で肌を晒すこと自体が恥ずかしい。

 ティアリーゼは熱くなった顔を隠しながら、自分が眠っていたときのことを考える。

(……あれから何日も経っているなんて信じられない)

 痛みにうなされている間、何度も夢を見た。燃え盛る故郷と人々の悲鳴。彼らを蹂躙する月光と同じ色をした白い竜――。

 つきり、と胸が痛む。何度裏切られても、やはり兄のことを殺したくはなかった。いつかはわかり合えるはずだと信じていた――。

「っ!」

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