元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 物語に現れる竜は、大抵が各地から集めた宝の山を寝床にして生きている。金貨一枚奪われただけで国を滅ぼし、たったひとりへの報復のために屍の山を築き上げる生き物――。

 シュクルにとっての『宝』がティアリーゼならば納得がいってしまう。

 本人が言ったように、ただ報復を果たしただけなのだ。ティアリーゼを奪われ、そして傷付けられ、目の前で殺されそうになったときのシュクルの感情を思うとうすら寒い気持ちになる。

 本当にあれは手加減した方だったのだ、と。

「傷が消えない」

 思考に没頭していたティアリーゼに向かってシュクルが言う。

 その手がつぅ、と背中を撫でていった。

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