元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 最初は恐れられていたのを思い出す。

 順応の早い亜人たちもこうして式の準備をするにあたり、人間や人間の作るものと触れ合い、考えを改める者が出始めていた。

 悲しい事件は起きてしまったが、当初思い描いていた共存の道へ一歩踏み出せたのを肌で感じ取る。

 そこでまた扉が開いた。ティアリーゼの部屋へ勝手に入る人物はひとりしかいない。

「まだ見に来ちゃだめでしょう」

「なぜ?」

 シュクルもまた結婚式のために衣服を改めていた。すらりとした長身を覆う、灰銀のマント。足の長さを強調するようなブーツには、独特の刺繍が入っている。

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