元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。

「私が欲しいのではないのか」

「違います」



 きっぱりはっきり言い切ると、ティアリーゼはシュクルの腕を抜け出した。

 もともと無邪気な性質のシュクルは、思ったことをすぐ口にするきらいがあった。

 おかげでティアリーゼは話好きになったシュクルが余計なことを言わないかと、いつもはらはらさせられている。

 先日は食事中に二人で湯浴みした話をされた。

 料理を運んでいた者はもちろん、部屋の隅に控えていた者まで、全員が硬直したのを覚えている。

 シュクルはご機嫌でティアリーゼの肌がすべすべで気持ち良かったことを語り、その後、一時間ほど口を利いてもらえなくなるというお仕置きをされた。
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