元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 無遠慮に手のひらや指先を撫でられ、手の甲を爪で引っ掻かれた。あまり人に触れられたことのなかったティアリーゼはわかりやすく動揺し、うろたえる。

(なんなの、本当に……!)

 勇者という扱いでも、身分は姫である。そんな相手を、こんなふうに撫でまわす人間などいるはずもなく。

 それなのにシュクルはまったく気にしていない。そもそも女性を撫でまわしていいと考えている時点でなにかがズレている。

「あなただって鱗がないじゃない」

 自分の動揺を悟られないよう、強気に言い返す。ティアリーゼは逆にシュクルの手を握り返し、同じように触れてみた。

(私よりすべすべかもしれない……)

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